
番外編:冒険者の仮宿
ある南方の地方を旅しているときのこと。
チョコボが体調を崩してしまい獣医の元に預けていた為、徒歩での旅をしていた。
少々疲れて道端の岩に腰掛け休憩をしていると、見知らぬ冒険者が声をかけてきた。
彼いわく、冷たく美味しい水が流れる川があるから一緒に行かないか?とのこと。
水筒の中の水はもうわずかだったので、これ幸いと一緒にしばらく歩いた。
話してみると彼も気ままな旅人であった。
お互い川辺で水を汲み、顔を洗い、意気投合してその後もしばらく一緒に歩いたが、途中の分かれ道で彼とは別れることに。
その時、『冒険者の仮宿』というものの存在を聞いた。
冒険者たちの噂では、そこの家主が”いつでも自由に使っていい”と言っている一軒家がある…とのこと。
彼も実際にそこに宿泊したのだそうだ。
別に宿を経営してるというわけでもなく、料金も発生しない。
家主による冒険者支援でもあるのだろうか?
しばらく野宿続きだったので、さっそく紹介されたその『冒険者の仮宿』へ向かうことに。
どうやらここから近いらしい。
しかし…宿の在処は聞いていたのだが、なかなかたどり着けずに結構迷った。
やっとそれらしき家を見つけた時はすっかり夜になってしまっていた。
仮宿と思われる家には、家主も宿泊中の旅人もいないようだった。
本当に勝手に泊まっていいのだろうか?と不安はあるが…。
ベッドは2つあるな。
まぁ冒険者ならば床でも喜んで寝るだろう。外よりはマシだ。
小さな水槽に小さな金魚が泳いでいる。
餌は誰があげているんだろうか?
迷ったせいで余計に歩いて疲れていたし、今夜は家主のご厚意に甘んじるとする。
うん、今日はここに泊まろう。
冒険者の仮宿一日目
昨夜は放置された本に埋もれるように寝た。

屋内なのに外にいるような気分になる爽やかな一角で珈琲を飲む。
家主のハウジングセンスに嫉妬した。
朝食は簡単に手持ちのパンを珈琲で流し込む。
賢人パンよりはマシかもしれない。

昨夜は疲れていてあまり部屋の中を細かく見てなかったが、よく見ればキッチンも備えていて料理も出来そうだ。
だが今日は疲れも残っているし、昼と夜は携帯食の干し肉を炙って食べようと思っている。
部屋の中には大きな本棚がいくつかあり、様々な本がギッシリと詰まっていた。
古くてボロボロなものから、結構最近の物まである。
それらの本を物色してはソファーで読んだり、何冊かベッドに持ち込み、寝転びながら読んだりと、思う存分ページをめくった。
こんな時間は久しぶりだな…。
今夜もここに泊まろう。
やけに居心地が良い。
冒険者の仮宿二日目
ベッドでぐっすりと寝たせいか、体調も万全になり体力が戻ったような気がする。
宿の蔵書の『諸国漫遊記』に各国の名物料理のレシピが載っていたので、昼飯にしようと、さっそく真似して作ってみた。
材料は周りの森などで代わりのものを採取、小麦粉は宿にあったのでそれを拝借。
ソースは特殊だが、なぜか宿に同じものがあった。
家主の持ち物か、それとも冒険者の誰かが置いていったのだろうか。
少ししょっぱめのソースがなかなかの美味!

夜は鍋を作って酒を飲む。
他の冒険者が訪れてくれたら一緒に鍋をつつけたのだが、残念なことに誰もやってこなかったので一人で楽しんだ。
すっかり英気も養えたし、明日にはここを立とう。
宿を立つ朝
ここに来てから、ずっとリュックが置いてある。
リュックのポケットから顔を出している向日葵の花は生き生きと咲いてるが…。
最初にこのリュックに気づいた時は、誰かが滞在してるのかと一瞬緊張したが誰もおらず。
俺がいる間は誰もこの宿にやってきた気配はなかった。
花には魔法がかかってるようで萎れもしない。誰かの忘れ物だろうか?
……いや、忘れ物であってほしい。
もう持ち主が帰れなくなったなんて、考えたくはない。
『諸国漫遊記』が気に入ったので、借りていく旨のメモをベッド近くの壁に貼った。
よく見たら、他のメモも誰かが借りた本のタイトルが書かれている。
必ずまた本を返しに来る、それが生きて帰る理由のひとつにもなる。
良い宿だった。

ベッドはお世辞にもふかふかとは言えないが、休息をとるには十分だった。
森でポポトの実を見つけ調理した際、残った実を宿の庭の片隅にこっそりと植えた。
いつか芽を出し、どこかの冒険者の腹を満たしてくれたらと。
近い将来か遠い未来に、また来よう。
『冒険者の仮宿』完
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